東北ブロック代表:青森県立青森南高等学校
『もみじ』  (木村 貴仁 生徒創作)





「もみじ」は、文部科学省委託事業で県教委が主催した「高校生による人権演劇発表会 あおもりヒューマンドラマフェスティバル」で発表した「紅葉」という30分ものの作品を膨らませて60分にしたもの。

性同一性障害の主人公が親からも友達からも理解されず、ボロボロになって自殺の名所にやってくる。そこで、自殺防止のボランティアをしている土産物屋のおじさんと出会い、生きる希望を取り戻す物語。

東北大会で創作脚本賞を受賞した生徒創作作品。「地獄でも何でも食っちまえ」の台詞に象徴されるように、障害をもつ人だけでなく、人生の困難を抱えている人全てに贈る応援メッセージが根底に流れている。

部員は合計7人。そのうちキャストはたったの3人。その3人が合計14役に挑戦していること、特に、女子部員5人がよってたかって作り上げた主人公望を是非ご覧ください。創部30年目にして初の東北大会、全国大会出場。

【客席からのメッセージ・感想・劇評】

○黒瀬貴之(広島県・40代・男)
【セットのスケッチに「赤が印象的。題材にマッチしていて効果的」】
「人間じゃないんだから」「男と女とバケモノ」とか、ドキッとするセリフがちりばめられていて、引き込まれた。「のぞみ」という名前は、男女どちらでも通用するという点で都合がいいのだが、あのお父さんならもっと「男っぽい」名前をつけるんじゃないかな・・・。
のぞみが苦しんでいる一つ一つの過程が丁寧に描かれており、よくわかったと、心を打たれました。ただ、苦しみの過程をオムニバスでつないでいくため、一つ一つの出来事とそこでの苦しみの“深まり”という点では弱くなってしまったかな。どうしても「説明」になってしまうんですよね。のぞみの人生に引きつけられつつ、ふとした瞬間に「絶望して自殺するために来たんだよね…?」と、我に返ってしまうのです。
ラストも展望があって救われるんですが、ここまで絶望したのぞみが、どう立ち直っていくのか、そのドラマが弱かったように思いました。
と、勝手なことを書きましたが、非常に難しいテーマに果敢に取り組んだ“意欲作”だったと思います。演出・演技が見事で、高いレベルで成功していたと思います。特に、のぞみ役は熱演ですばらしかった。大した演技力、感服しました。だんだんいとおしくなってきました。高校演劇の可能性を示してくれた舞台だったと思います。ありがとうございました。

○岡田(広島県・40代後半・男)
 難しい問題に取り組まれたことに敬意を表したいと思います。
とくに、逆の考えを持つ役を兼ねることによって、抱えてる問題点の理解が深まり、それが伝わる力になっていったのではないかと思います。
 もみじも綺麗でした。最初、ホリゾントの赤とかぶっていてもったいないなと思いましたが、これはこれでありかなとも思いました。ただ、散らかっているたくさんの葉を、せっかく持っている箒で掃き、集めた葉を使って何かできなかったのかと思いました。
 また,のぞみさんが前向きになるきっかけというのが、少し弱い感じがしました。皆にあまり知られていない問題を扱うときに、どうしても説明する部分がふえてきて、ドラマ性が薄れていってしまうことがありますが、その点を改善されると、素晴らしい劇になるのではないかと思います。
 しかし、その分を差し引いても、たった3人があの広い空間でつくってきたものは、誇れるのではないかと思います。
 お疲れ様でした。
○I love ガリバルディ! ヘタレなべしき (愛知県・10代くらい・女)
とてもテーマが深く,難しい作品であったと思います。
まず、キャスト3人で合計14役をやるという所に驚きました。衣裳もほとんど変わらず、暗転もせず、テンポよく場面が切りかわっていくのに、ごちゃごちゃにならず、どんな状況であるのかはっきりとわかるのは、やはりキャストさんの演技力の高さによるものなのだなと思いました。
 のぞみさんのしぐさの一つ一つが女の子らしくて、ヒロシさんと一緒にいるときも本当に幸せそうに見えたので、ヒロシさんに「自分の身体は男である」と告白する場面ではとても胸が苦しくなりました。“こころ”と“からだ”が一致しないことは、これほどに辛いことなのだ、ということがすごくよく伝わってきました。
最後も希望の見えるような終わり方で、本当によかったなぁと思います。多くのことを考えさせられる作品でした。ありがとうございました!

○そして未来へ(熊本県・17歳・男)
演技力が素晴らしく、ストーリーに散りばめられた言葉の数々も心を打つものがあり、とても良い芝居を見せていただくことができて良かったです。
人間の命や生きていくことそのものの大切さを、改めて痛感させられました。誰かが望みながらも生きることができなかった今日を、自分も生きているのだと思うと、もっと頑張って生きていかなければ申し訳ない、という気になりました。



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